膚は硬帝都に来
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膚は硬帝都に来
「いや……ずいぶん可愛らしくなってしまったと思っただけだ。こんな一衛は見たことがない。」
「幼いころは、みんなこんな頭でしたよ。ご存知じゃありませんか。」
「みっともないことなどあるものか。どんな姿でも、一衛はいつも器量良しだ。かといって、か弱い女子のようではなく、野に咲く竜胆のように凛としている。」
「直さま……戦がなかったら、きっと直さまが一衛のただ一人の兄分でした。」
向けられた悲痛な瞳に、戸惑う。
これまで直正に何かをねだったことなど、一度も無い一衛だった。
「一衛は、前髪の幼い頃からずっと、直さまだけが好きでした。ですから、い……一度だけ……一衛を……。雪解けの頃の根雪のように、すっかりこの身は朽ちて汚れてしまいましたけれど、今もわたしを弟(おとと)のように愛しいと思っていてくださるなら……。」
ひたと、視線を据えた。
思いつめた瞳が雨に濡れた黒い碁石のように光る。
思わず手を伸ばして、深く抱く手に力を込めた。
強く抱いていないと、このまま儚い淡雪のように手のひらで溶けてしまいそうだ。
遠慮がちに口にする、すっかり線の細くなった一衛はて三年、19の若さで死期を悟っていた。
兄とも思う人に抱いてくれと俯いたまま消え入りそうな声で、初めて秘めた心の内を打ち明けた。
余り日の差さない雪深い国で生まれた一衛の肌は、死病を得て今や透き通るように白い。
「もう、何度も……後孔は使われてしまって、菊門の皮くなってしまいました。それでも一衛はできるなら、直さまに求めて欲しいのです。例え一度きりでもいいのです……」
直正は軽くなった一衛を抱く腕に、骨も折れよと力を込めた。
「悲しいことを言う。一衛はわたしの終の相手だ。一衛はずっとわたしだけのものだ。」
嗚咽が喉をついた。
「ああ……うれし……それをお聞きしただけで、一衛は一生分の良いことを、神仏に頂いた気がいたします。」
「馬鹿なことを。まだこれからじゃないか。島原屋には話をつける。もうお前にこんな格好をさせない。」
雪見障子から見える、鮮やかな紅葉が一衛のどこまでも白い肌に一枚舞い降りて映えた。
吹き込んだ一陣の風に、直正は思わず窓外に目を向けた
「懐かしい色だ。この坪庭にある紅葉は、まるで会津の奥山のもののように色が濃いな。」