を合わせ次

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

を合わせ次



涙を拭いて毅然と六花は、先に立ち上がった。雪華花魁の覚悟を知った上は、もう迷いはなかった。
どんなことが起ころうとも、この綺麗な人がどれほど乱れても、きちんと動ぜずに自分は見届けようと思った。
大江戸で「油屋の若旦那」と二つ名で呼ばれていた異国の青年は、今、機上の人となりながら水滴の走る窓に額を付けた。もう二度とこの国に降り立つことはないだろう。
愛する人を残して一人国許に帰る、それだけのことが今はたまらなく悲しい。
自分の心中を察した天が、共に泣いている気がしていた。

「雪華……」

誰にも祝福されることの無い、報われぬ恋が終わりを告げる。
プライベートジェットのゆったりとした皮張りの椅子に、人払いをしたサクルは毛布を深く被り肩を震わせた。

これ程に人を愛したことはなかった。ただ一度、肌ただけの美しい男女郎の姿が、ひらひらと蝶のように長い袖を翻してまぶたの裏で揺れた。
「サクル。成人の披露目をしたくないと言ったそうだが?」

「あ、父上。今、お伺いするつもりでした。」

「王位継承権を持つそなたが、なぜ出席を拒む?王族に期王の宣言をし、祝賀の宴を開いて、臣下万民に広く知らせる手はずになっておったのだが……?」

サクルは父王に似た精悍な顔を向けると、人好きのする顔をふっとほころばせた。

「成人の日は、父上と静かに酒を酌み交わしたかったのです。わたしの好きなニホンコクでは、大人になった男子は成人したら、そうするものらしいですから。」

「お前のかぶれている、東洋のちっぽけな島国の話かな?」

「ええ。父上が子供の頃に、わたしにお話して下さったお伽噺のような国の話です。かの国では、成人の夜は父親と息子は互いに自ら酒を汲み、人生について長い間話をするそうですよ。」

「それが望みか?」

PR